記憶のカケラ


“しりとりをしようよ”

「しりとり?」


いきなり放たれた言葉に驚きながら、目をこすって時計を見る。まだ4時だよ。

そう言おうとして前を向けば、何もいない。不思議に思って。

もう一度寝ようとすれば、声がまたきこえた。


“さあ、始めよう。はじめの言葉は、ユウレイ”

「え、えっと、イカメシ?」


え?ユウレイって幽霊?初っぱな何でそれ?

というか未だに姿見えないんだけど?

え?嘘だろ?マジで幽霊なの!?


“シコウサクゴ”

ご、ご、ご......ごはん、じゃなくて

「ごはんつぶ」


シコウサクゴって試行錯誤だよな?


“ブシ”

「しらす干し」


ブシ、...武士?

あれ?おれ、ここまで食べものしか言ってない?

あ、なんかおなかすいてきたかも


“シカ”

「カレー」


ああ、カレー食いてえ...

ジャガイモとニンジンと玉ねぎがごろごろ入ったやつ。

あ、サツマイモ入ってても美味しいなあ...


“エモノ”

「のり巻き」


のり巻きもいいよなあ...

納豆巻きとか、太巻きなんかも好きなんだよな


そこで、ふっと時計が目に入る。


あ、準備しなきゃ


“キシュ”

「しゅうまい」


言いながらおれは起き上がってカバンに荷物を詰め始める

えっと、今日は授業変更は...ああ、倫理が生物になってるのか


“イケニエ”

「えだまめ」


あー、そういえば、冷凍庫に枝豆あるな、弁当にいれようか

荷物を詰めると、今度はクローゼットに向かう


“メダマ”

「マカロニ」


制服、制服っと

もう慣れたそれに、急いで着替える


“に、に...ニバシャ”

ニバシャ~?ニバシャって、荷馬車か?

ずいぶんとまあ、古めかしい言葉が出てくるもんだなあ

「社会」


着替え終えて、階段を降りてリビングに向かう

リビングの扉を開けると、リビングに隣接する形で母さんたちの寝室がある

母さんたちってのは、母さんと小さい弟二人のことだ


“イチゴ”

「ごぼう」


なんか、いきなり可愛いの来たな

さて、とりあえずご飯炊くか...


“ウルウドシ”

はいはい、うるう年な

「白身魚」


あ、鮭みっけ

ご飯を火にかけて、冷蔵庫を覗くと、好物が入っていた。

これも焼いちゃえ


“ナス”

「酢飯」


さて、卵焼きでも作ろう

やっぱ、弁当には卵焼きだよな


“シラカバ”

「バジル」


卵焼きと鮭と、あとミートボールの作りおきがまだ残ってたはず

あ、でも、これじゃ野菜が足りない、か?


“ルツボ”

「ボローニャ」

“ニャ?”


あ、ブロッコリー発見。冷蔵庫のしたの方に埋まっていた。

ブロッコリー美味しいよなあ...

胡麻油と醤油で味付けされたやつが特に好きだ

あ、塩を少しふった湯でさっと湯がいても美味しいけど


“ニャ?”

「ん?」

“ニャって、ヤでもいいか?”

「別に構わないけど」

“じゃあ、ヤタイ”

屋台な

「石焼き芋」


幽霊?とのしりとりを続けながら黙々と手を動かす。

あ、ご飯の火止めなきゃ

タイマーセットして、蒸らす...っと。

つまみ食いをしながら作っていれば、だんだん腹も満たされてくる。


“モリ”

「りんご」

弁当のおかずは出揃った

そろそろ母さん起こすかな...


“ゴクラク”

「食い物」

“ノロイ”

「いってきます」


母さんに声かけてから、幽霊にも返事がてら挨拶。


“え?”

「お前さあ、幽霊なんだろ?」

“え、うん?”

「もう朝だぞ?ついでにいえば、おれもご飯炊き上がったし、それ詰めたら学校だ」

“うん...?”

「てなわけで、」


会話しながらも手を動かしていたおれは、完成した弁当をカバンに入れる


「いってきます」




登校中にふと思った。

なんで幽霊がしりとり?


「まあ、いっか」


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