presquerien

ーー

 「どういうつもりだ」

 その夜。

 高価な酒を浴びる様に流し飲んでいた王は、背後の突然の声に溜息を吐いた。

 姿を見ずともそんな芸当が出来る存在は一人であった。

 「わかるだろう。俺には立場があるんだよ」

 「なぜ世話人なのか説明しろ」

 「嫁にしろといいたいのか?俺は王様だ。奴隷上がりの女を側室にでもしてみろ。笑いものだよ」

 「そんなに身分が大事か」

 「人間界がわかってないなぁ。ま、天使には難しいか」

 「永遠を誓い輪廻の輪にのり、再びめぐり合ってもなお、この世の理に身を置くのか」

 「そうしなければ生きられないだろう?共に」

 「そんなことない。お前が今の地位を捨てればいいだけだ」

 「そんなこと出来ないね。今、俺はあの頃のシニアンでなく、全てを総べるキュイ王。残虐王と名を売ったのも全てを手に入れるこの力の為。それを過去の女にあったことくらいで捨てられるはずもない」

 「それではなぜ、走りなりふり構わず彼女の前に出たんだ」

 あの行動だけが腑に落ちない。

 その質問にはキュイ王は頭を抱えた。

 「…信じられない話だが…魂が…揺らいだんだ…彼女の姿に…一目で奴隷とわかった…城の上で彼女の姿を見て俺は彼女を嘲笑したんだ…そしたら…魂が震え胸が締め付けられた…俺の中の何か…多分シニアンが…俺の魂が言うんだ…彼女をあんな目に合わせてはいけないと…叫んだ…走る足を…止められなかったんだ…」

 寧ろ納得がいった。

 二重人格のようなあの変わり方。

 話し方すら変化したそれはシニアンの魂が彼女に向けて言った言葉か。

 今のキュイとしての彼の人生に、シュイルとして生まれ変わった彼女はいらない。

 だが前世のシニアンには、ハバナは必要な存在。

 その狭間で、彼は揺れている。

 彼女ほど強く、運命の輪に乗り想っていたわけではない彼は、二つの魂の中で揺れているらしい。

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