presquerien
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「また、会いたいの思うのか?」
どれだけ歩いただろうか。
飛ぶ、空間を転移すると言う反則技を持つアイルでも、この世界の理に乗せられた彼女を連れていてはそれは出来ない。故の徒歩であった。
息の切れた声で聞けば、柔和な笑みが返ってきた。
「はい。それはもう」
「そうか」
とてもと続く言葉を阻み、再び歩くことに集中した。
「今の私の名前はシュイルと言うんですよ」
毎度変わる名前を憶えてはいなかったアイルにとって、その呟きはどうでも良いものだった。
もう数えきれない程の運命を歩いている彼女の名前など、過ぎ去る日々の想い出に近い。
「そうか」
彼にとって彼女は永遠に、出会った時と同じ『ハバナ』であり、その姿形がどれ程変わろうとも変わらずに彼女は彼女であった。
それでも、相手はそうではないんだ。
歯噛みしたくなる事実が、一つあった。
それは神さえ嘆くこと。
「…あのお方は今度はどんなお姿なのでしょうね」
彼女の運命の相手、その存在の変容はまさに人と言えた。
永遠を語るに値しないその堕落した生は、怠惰な人間を表すにはうってつけ。
欲にまみれ快楽にだらしなく、手段など択ばぬその本性は時代がどれだけ変わろうとも変わらない。
永遠を語る彼女の忠実なる想いすら、時に利用する薄汚さ。
軽薄な言葉、それでも永遠を近い運命の輪にのせられていることを正直納得できないでいた。
どうすれば、あの男を永遠を誓い想っていられるのか、不思議で仕方がなかった。