それならいっそ、黒になれ
「春人くん」
開け放たれたドアから
中に入らずに呼びかければ
部屋の隅で絵を描いていた彼が
こちらを向く。
そしてふわり、と
柔らかい笑顔になった。
「那智。
ごめんね
すぐに片付けるから」
「あ、ううん。
気にしないで
ゆっくりどーぞ」
私も笑顔を返せば
春人くんが
ありがとう、と
美術室に声を響かせる。
春人くんとは
生まれたときからお隣さんで
親同士も仲がよくて、
いわゆる幼なじみだ。
そして今は
その関係にプラスして
恋人同士でもある。
一緒に帰るのは
長年続けてきた約束事だし、
恋人になったからといって
特別何かが変化したわけではないのだけれど。
ああ、でも。
付き合う前では考えられない距離感とか
春人くんの底なしに甘い言葉とか
よく考えれば変化はしてるのかも。
私が意識していないだけで。