それならいっそ、黒になれ


そんなことを考えていると
春人くんが
片付けと帰り支度を終えて
こちらに歩いてきていた。

思わず駆け寄りそうになって
でも、我慢する。



だって私はもう、
春人くんのこと支えられないし。



春人くんは
小さな頃の事故で
杖がないと歩けない。


ゆっくりと、ゆっくりと
杖の音をたてながら
私の方へ歩いてくる彼に
心臓をぎゅっと掴まれたみたいになった。


目の前まで来た彼が
ふわりふわりと綿菓子みたいに笑う。



「お待たせ、帰ろっか」

「うん」



昇降口へ行く間も
春人くんは何人もの人に声をかけられて
やっぱり人気者なんだな、なんて。

天使みたいと形容される
中性的な容姿と
愛嬌と優しさの溢れる性格。

模試では
全国ランキングに
名前を載せるくらいの優等生で、
所属している美術部でも
数々の賞を受賞している。


高校生にもなって
誰と誰が付き合ってる、なんてことに
わざわざ釣り合わないとか言って
いじめ紛いのことをする人は
さすがにいないけど
それでもこれは
あまりにも分不相応すぎる。

なんて、自分で思っちゃうくらい。

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