それならいっそ、黒になれ
「あ、行村くんだ」
不意に春人くんが足を止めて
グラウンドに視線を向けた。
私はそれに
身体を固まらせて
でも気づかれないように
顔をそちらに向ける。
呟くように
春人くんが言った。
「さすが、速いね」
グラウンドに引かれた白い直線。
まっすぐなコースを駆ける
我が校期待の陸上部員。
この間の大会でも、1位だった彼は
春人くんの憧れだ。
「すごいね」
ぽつり、と。
本心が溢れる。
ビー玉みたいに澄んだ栗色の瞳は
彼に何を見ているのだろう。
羨望か嫉妬か、はたまた後悔か。
それとも、憎悪?
「春人くん、帰ろ?
あんまり遅くなると
おばさんが心配するよ」
「んー…。うん、わかった」