タタリアン
 由香が池の側の森に目をやる
と、このキャンプ場の管理をして
いる30歳の坂倉健吾が樹を見上
げて書類にチェックをしていた。
 健吾はかなり汗をかいたらし
く、池に来て上半身裸になり、タ
オルを濡らして体を拭いた。
 由香が遠目に見ても健吾はたく
ましい体でいい男だった。
 健吾は由香を気にもせず、いつ
もの習慣のように体を拭き終わる
と、また森に入って行った。
 由香はポーッとしている自分に
気づき、いそいそとみんなの所へ
戻った。

 夜、テントに女性3人で寝てい
た由香は目を閉じると昼間見かけ
た健吾のたくましい体が思い出さ
れて眠れなかった。
 眠ろうとすればするほど興奮し
てくる。
 由香は2人を起こさないように
そっとテントを出て、ひんやりと
した風にあたった。
 気分が落ち着くと眠気が襲い、
催眠術にかかったようにフラフラ
と歩きだした。
 由香は気がつくと龍神乃池に来
ていた。
 池は月明かりで青白く輝いてい
た。
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