タタリアン
 設置作業の昼休憩になると弁当
を持って健吾のところにやって来
る女性がいた。
 役場の林業課で事務をしている
25歳の峰岡里美で、つい最近働
き始めて健吾と知り合った。
 里美も由香と同じように健吾に
ひかれ、健吾が独身だと知り、手
作りの弁当を持って来ては一緒に
食べるようになった。
 いつもは喜んで弁当を食べる健
吾の箸がすすまない。
「やだ、美味しくなかった?」
 里美は健吾の顔をのぞきこん
だ。
「いや、美味しいよ。ちょっと考
え事をしてた」
 健吾はいつものように弁当を美
味しそうに食べた。
 心配顔だった里美もほっとして
弁当を食べた。
「ねえ、今晩、一緒に食事しな
い?」
 里美のほうから何気なく誘って
みた。
「うん。いいよ」
 健吾は弁当を食べながら素っ気
ない返事をした。

 マンションの里美の部屋に新婚
夫婦のようにレジ袋を持った里美
と健吾が入って、キッチンにレジ
袋を置いた。
「向こうでビールでも飲んでて、
すぐ料理するから」
 そう里美に言われて健吾はレジ
袋から缶ビールを取り出し、リビ
ングに行った。
 里美はエプロンをつけて料理に
とりかかった。
 ひとり暮らしの女性の部屋らし
く、整理されたリビングに健吾は
居心地の良さを感じた。
 座り込んで缶ビールを飲むと、
仕事の疲れからか、うとうとし始
めた。
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