タタリアン
 いつの間にか眠った健吾が里美
に揺り動かされて起きるとテーブ
ルに食事の支度が出来ていた。
 里美は煮物を箸でつまんで健吾
に食べさせた。
 健吾は寝ぼけ眼で食べながら、
「うん、美味しい」
「これ、自信あるんだ」
 うれしそうに里美も食べて得意
そうな顔をした。
 ふたりは食事を楽しんだ。
 食事が終わって里美がキッチン
で食器洗いを済ませリビングを見
ると、健吾が仰向けになって部屋
に置いてあったファッション誌を
眺めていた。
 里美の目が健吾の体にくぎづけ
になり興奮してきた。
 里美は健吾にゆっくりと近づ
き、健吾をまたいで上に乗った。
 健吾はいたずらっぽく体をゆす
ると里美は快感にもだえ、健吾に
しがみついた。そして、健吾から
ファッション誌を取り上げ、キス
して健吾の服のボタンをはずし
た。
 健吾は里美の腰にそっと手をあ
て、ゆっくりと腰を動かした。

 その頃、月明かりに照らされた
龍神乃池の中央で赤くにごった水
が湧き出て、波紋を広げるように
池全体を染めていった。

 健吾に寄り添い満足そうな顔を
して眠っている里美。
 健吾は里美を起こさないように
そっと立ち、玄関に向かった。
 玄関のドアを開けると、健吾と
瓜二つで服装も同じもうひとりの
健吾が立っていた。
 ふたりは言葉もかわさずに入れ
替わった。
 里美のマンションから出て来た
健吾は自動車に乗り走り去った。
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