タタリアン
 取調室の窓が夕日で赤く染まっ
ていた。
 警察官が歴史の資料を持って
入って来た。そして資料を机の上
に広げて美咲に見せた。
 警察官が申し訳なさそうに、
「あのー、お時間は大丈夫です
か?」
「大丈夫です。200年前だから
1800年頃は…、あった。徳川
家斉の時代。伊能忠敬が地図を
作ったりしてる。ロシア船、アメ
リカ船、イギリス船が貿易を要求
しにやって来てるわ」
「その時代は鎖国でしたもんね」
「あっ、1783年に天明の大飢
饉があって1832年には天保の
大飢饉があるわ。その間ぐらいか
しら?」
「環境の変化が激しい時代だった
んですね」
「外国の船がやって来て疫病が増
えたって考えられませんか?」
「そんな記録は…あ、いや、そん
なことがあったかもしれません
ね。あったのかー?」
「でもその時代に行かなきゃ意味
がないですね」
「まさかタイムマシンなんてある
わけないし」
「もしあるとしたら誰かが連れて
行って戻すのに目印があったほう
が分かりやすくないですか?」
「子グマのぬいぐるみが戻る時代
と場所の目印になりますね」
「でもなんでそんな時代に連れて
行く必要があるのかしら?」
「いやぁ、もうここまで分かれ
ば、後は私達のほうでも調べてみ
ます。本当にありがとうございま
した。今日はもう遅いのでこれぐ
らいでお引取りください。ご自宅
までお送りします」
 美咲は警察官にせかされて取調
室を出た。

 子グマのぬいぐるみが2個、回
収され未回収は10個になった。
< 25 / 63 >

この作品をシェア

pagetop