タタリアン
 家に帰った美咲は亡くなった父
親の遺品を片付けることにした。
 するとその中に古い木箱があっ
た。
 開けてみるとピエロのような服
を着た気味の悪い西洋人形が入っ
ていた。
 頭は陶器で作られ目がつり上
がって怒っているのか笑っている
のか分からない顔をしていた。
 布製の洋服は傷みが少なくシル
クのようなつやが残っていた。
 木箱を見ると墨で薄く「南蛮人
形」とだけ書かれていた。
 美咲はこの人形がミイラ事件と
関係があるのではと思って木箱に
戻そうとした瞬間、人形は手から
消えていた。
 気づくと美咲は田畑の荒れた大
地に座っていた。
 空は厚い雲に覆われて暗く、建
ち並ぶ建物はどれも古い民家の崩
れたような廃墟だった。
 美咲はすぐに察した。
(みんなここに連れて来られたん
だわ)
 美咲が立ち上がってトボトボと
歩いていると骨と皮になった死体
がゴロゴロと何体もそのままに
なっていた。
 道端にはやせ細った人が座り込
み、目はうつろで美咲を見ても何
の反応もなかった。
(飢饉の時代)
 美咲は200年前に来たことを
実感した。すると自然に涙があふ
れてきた。
(私はミイラになるのはイヤ)
 さんざん泣くと諦めとも覚悟と
もつかない気持ちになり冷静に考
えた。
(飢饉はあったけど日本人は絶滅
したわけじゃない。何か生きる方
法があるはず)
 そう思うと少し元気が出てきて
足どりが軽くなる。
 美咲はこの場所から出ることを
決めて歩き出した。
(あの人形。きっとどこかにあの
人形の手がかりがあるはず。西洋
人形、外国船、だとしたら海岸を
見つければいいわ)
 美咲は山の見えない方に海があ
ると考え、祈る気持ちで歩いた。
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