タタリアン
 潜水艇が海の底深くに潜って行
くと大きな難破船が見えてきた。
 難破船は西洋の帆船らしい原形
をとどめ、まだ沈んで間もない様
子だった。
 潜水艇の内部にいたはずの美咲
が息苦しさを感じると難破船の海
水の溜まった船内にいた。
 海中の美咲は慌てて浮き上がろ
うともがき、天井の辺りに残る空
気をなんとか吸うことが出来た。
(なんでこんな殺し方するの)
 美咲は脱出しようと海中に潜る
と手足を鎖につながれた金髪の青
年が見えた。
 青年は気を失ってはいるが生き
ているらしく口から泡を出してい
た。
 美咲は戻って空気のある場所に
顔を出し、
(あの人を助けろっていうこと)
 空気を吸って潜った美咲は青年
に空気を口移しして、また空気を
吸ってという繰り返しをし、鎖を
調べたがすぐには、はずれそうに
なかった。
 何も出来ずいら立った美咲は、
一旦空気が溜まっている場所に戻
ると叫んだ。
「鎖がはずれない。私には無理
よ」
 すると頭の中で声が響いた。
「彼の居場所が知りたい。教えて
くれ」
 美咲はもう一度、海中に潜り、
青年を抱いて念じた。
(ここに居るわ)
 美咲が気づいた時には潜水艇の
内部に青年と一緒に倒れていた。
 青年も息を吹き返したようだっ
た。
 美咲は助かってホッとした瞬
間、気を失った。
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