タタリアン
-トンネル-
 ある町に昔、造られた長いトン
ネルがあった。
 過去に12人が死亡するトンネ
ル火災事故が起き、それ以来トン
ネルを走る幽霊を見たとか、自動
車の後部座席に現れる幽霊とかの
噂が絶えなかった。
 いつも夜になると自動車はよほ
どのことがないかぎり通ることは
なかった。

 ある夜。
 自動車の見あたらないトンネル
に、飛行物体がスーッと入って
行った。
 トンネルの中で飛行物体は停止
し、ひとりのお爺さんが降りた。
「ああ、ありがとう。じゃ、また
な」
 お爺さんは飛行物体の中に声を
かけると、飛行物体はまたスーッ
と飛んで行った。
 ひとりトンネルをトボトボと歩
くお爺さん。
 お爺さんの名は矢杉平助といい
トンネルの近くの家にひとりで住
んでいた。

 家に帰った平助は部屋にある水
槽に向かった。そして手に持って
いた錠剤のようなものを水槽に入
れた。
 錠剤は泡を出して水中に落ちた
かと思うと見たこともない生物が
孵化し泳ぎ始めた。
 そしてすぐに分裂し2匹になっ
た。
 そのうちの1匹を筒の中で隠れ
ていた両生類のような生物が一飲
みにした。
 平助は水槽の中の出来事には興
味がなく、ソッポを向いて別の部
屋に行った。
 平助の入った部屋には円柱の黒
いタワー型パソコンのような物が
あり、平助はそれに向かって焚き
火にでもあたるように手をかざし
た。するとその上に、お婆さんの
立体映像が現れた。
 平助は抱きしめるように手をの
ばし、
「婆さん、帰ったよ。また娘に子
供ができとったよ」
 そう言うとお婆さんの映像は何
も言わず、ニッコリと微笑んだ。
 平助は旅の土産話を延々とお婆
さんの映像に向かって話した。
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