煙にまかれて。
ベッド
情事の後、彼は必ず煙草を吸う。
昔よりも苦い匂いのする煙を、こちらを見ようともしないのに僕の頭を撫でながら吹かすだけ。
部屋に残る僕の香りを消す為の行為にも思えるから、僕は彼のこの行動があまり好きではない。
わざとらしく今起きたかのような仕草をしながら、僕も自分の煙草を口にくわえた。
彼はライターでそれに火を付けてから、寝転がって2本目の煙草に火をつける。
メンソールと酷く苦い匂いは、部屋の中で混ざれずに只々空気を汚していった。
苦い匂いだけは、僕の身体も汚していく。
呼吸するのが辛い。胸が苦しい。
望んで恋人関係をやめたあの頃よりもずっと、今のほうがそう感じるのは何故だろう。
焼け焦げて落ちていく煙草がなくなる前に、僕は吸い込んだ煙を彼の口の中へそっと吹き込んだ。
咽る彼の煙草と自分の煙草を交換して、僕は好きでもない香りをゆっくりと吸い込んだ。
結局、僕も咽てしまった。