・いつまでも、キミを想う

揺れる電車内。

どう考えても、この状況は周りの目が私と助けてくれた人に集中しているのは明らかで。

助けてもらったくせに、恥ずかしさで顔が熱くなっていく。


電車に揺られながら下を向く私に、助けてくれた男性は周囲を見渡し声をかけてきた。


「取りあえず、座りませんか?」

「……は、はい」


男性に連れられ、私は空いている席に腰を下ろす。

立っている状態よりは、周囲の目も気にならなくなった。


「ありがとうございました。助かりました」

「……いえ」

「?」


短く答えた男性は、私の隣りに座ることなく背を向けた。

再びドア付近に戻り、手すりに背中を預けて立つ。


そんな男性の姿から目が離せない私。

助けてもらったお礼は言った。

おかげでクライアントとの待ち合わせの場所にも、余裕をもって着くことができそうだし。

だから、もう用済みのはずなのに。


……気になってしかたがない。


不意に頭をよぎったのは‘イイ男は、あちこちに沢山いるじゃない’と言っていた繭の言葉。


私、一目惚れしちゃったのかな。

ううん、そんなはずはない。

初めて会った、名前も知らない見ず知らずの人に一目惚れなんてするはずがない。

いくら危ないところを助けてくれたからって、いい人とは限らないし。

< 105 / 136 >

この作品をシェア

pagetop