・いつまでも、キミを想う
手を握られたままの私は、どうしていいか分からない。
こんな時、きっと繭だったら軽くかわしたりできるんだろうな。なんて、思っている私が居たりして。
「あなたに頼んだのは、僕の新しい店の設計図だ。誰かに見られたりしたくない」
二階堂様は、私の勤務する設計事務所のお客様。
事務所で初めて会った時、何故か初対面の私を指名してくれた人。
私にとって大切なお客様である二階堂様にとって、この設計図が大切だと思ってくれる気持ちも私からしたら、ありがたい言葉だ。
ホテルの部屋に誘われたのは、深い意味じゃないはず。
二階堂様は、本当に大切な自分のお店の設計図を、お店が出来上がるまで誰かに見られたくないって事なのね。
「分かりました。ご一緒します」
取り出していた書類を封筒にしまい、私は二階堂様の後を歩きエレベーターに乗り込んだ。
隣りに立つ二階堂様は、程よい距離を保ってくれている。
それは、私が警戒しない様にとの配慮からなのかは分からないけれど、実に紳士的に感じてしまう。
二階堂様の手にはカードキーが握られていて、開いている手はポケットにしまわれている。
それを目にした私は、心なしか安心していた。