・いつまでも、キミを想う

碧人の背中を押しながら、色々と策を練ってみても。

これ!と言えるような作戦が思いつかない。


このままでは、せっかく忍び込んだのに。

次のチャンスを待つ状態になってしまう。


教室を離れ、廊下を歩き階段にさしかかった。

私に背中を押されている碧人が、先に階段を下り始めた時。

前に進んでいた私の足は、ピタリと立ち止まる。


そんな私に気づいた碧人は、振り返り私に声をかけた。


「どうした?」

「……ごめん。ごめん碧人。先に家に帰って。私、ちょっと……」


全て口にする前に、私の足は教室へ向かって駆けだしていた。


私には未だしなくちゃいけない事がある。

教室に戻って、黒板に……黒板に記さなきゃ。



教室に戻ると、リンの姿がそこにはあった。

フワフワと教室内を飛び回り。

それは、まるで私が戻ってくるのを待っていたかのように。


「レイ! チョークね、碧人が持ってたの。私の手に戻って来たよ。これで帰れるんだよね? レイも消えずに済むんだよね?」

「そう、良かった。彼は? 未だ近くに居るんでしょ? 別れの挨拶は、キチンと出来たの?」


レイの質問に、私はNOと首を振る。

別れの挨拶なんてしたくない。


私は、七色の輝くチョークを手に黒板に向かう。

なにも記されていない黒板の前に立ち、深く深呼吸をした。


そして。

チョークを黒板に当て、願いを込めチョークを走らせる。



【10年前の涼香】



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