眠りの森のシンデレラ
「まあ落ち着いて。根拠はないけど大丈夫。イベントは来年二月でしょう。まだ時間はあるし、落ちてくれるよ、琶子ちゃん。ウーン、たぶんだけど……」

邪気の無い裕樹の笑顔と尻すぼみの言葉に、『前途多難』という四文字が、則武の頭に浮かびエンドレスに流れる。

縁起でもない! 則武はブルンと頭を振ると、「シャラップ!」と裕樹を一喝し睨む。

「お前はもう一言も話すな! 協力は仰がん。このまま帰れ!」
「エーッ、サイン貰うまで帰らないよ!」

表紙に頬ずりしながら裕樹も負けじと睨み返す。

二人のやり取りを聞きながら、清は心の中でフッと笑みを零す。
ーーそれでも、この場所に来れたのはコイツ等のお陰だ……。

『思いも寄らぬことは誰にでも起こる。だが、そこから逃げ出すのも自分。受け止め進むのも自分。どちらを選ぶかは自分次第。未来は己が作るもの』

在りし日の父親の言葉が清の頭に蘇る。

そうだな、そろそろ前を向かなければ……徐に瞼を上げると清は窓の外を見る。昔と変わらぬ風景……。

ーーそう思いながらも……窓ガラスに哀愁を帯びた瞳が映る。
途端に競り上がる胸の痛みに清は顔をしかめる。

その時、清の頬を心地いい風が撫で吹き過ぎる。
まるで『大丈夫』と言わんばかりに優しく……。
< 11 / 282 >

この作品をシェア

pagetop