眠りの森のシンデレラ
フッと笑みを浮かべ、清は組んでいた足を解き、サッと立ち上がると、琶子と向かい合い腰を折り、彼女の耳に口を寄せ小さく囁く。
「好き同士になったら、キスしていいのか……ではその時、本当のキスを教えてやろう」
琶子はどんぐり眼で清を見つめ、咄嗟に身を後ろに引く。
「さあ、そろそろ、行くぞ」
アハハと楽しそうに一つ笑い、戸惑う琶子にお構いなしに、「姫、お手をどうぞ」と清は手を差し出す。
ひじ掛け部分に身を寄せながら、琶子は混乱する頭をフル回転させる。
キスですって! 好きですって? 琶子の心臓が激しく踊り出す。
どう見ても王子だ。カッコイイのは認める。変人だが嫌悪は抱かない。
でも……と湧き上がる恐怖に身を固くする。
疫病神の私が……負の連鎖が……。
清は突然変わった琶子の表情に驚く。
恐怖? 何を恐れているのだ? 恐れるもののせいで先に進めないというのなら、俺がそれを取り除く!
清が力強く言う。
「琶子、大丈夫だ。俺を信じろ! 俺は何処にも行かない。お前を守るって言っただろ」
琶子はハッと清を見る。
『大丈夫』彼の言葉が木霊となり、頭の中をリプレイする。
その言葉をズット欲していた。
何処にも行かない……私を置いていかない……。
疫病神に、負の連鎖に……ならない?
琶子は顔を上げ、覗き込む清の瞳を見つめる。
真摯で豪然とした瞳が見つめ返す。
この手を取ってもいいの? 信じてもいいの?
手を出すことに躊躇う琶子に清が言う。
「俺の中にも恐れはある。だが、俺は負けたくない。立ち向かうと決めた。琶子、一緒に前へ進もう! 大丈夫だから」
こんな自信溢れる彼も何かに怯えている?
二度目の『大丈夫』の言葉に勇気を貰い、琶子はおずおずと手を伸ばす。
清の手が触れる。力強い何かがその手から伝わり、琶子も微力だが、彼の恐れを取り除いてあげたい、そんな思いが胸に沸く。
清は琶子に知られぬよう、ほくそ笑む。
金成の資料はかなり役立つ。清は彼女の性格を知っていた。
自分よりも他人のことを、まず考えることを。だからそれを使った。
だが、全てが嘘ではない。
ナナへの悔恨が今なお清を苦しめる。それが恐れというなら、そうなのだろう。
清は琶子の手をギュッと握る。
「琶子、リハビリ第二弾だ。行くぞ!」