眠りの森のシンデレラ
その頃、眠りの森の住人、登麻里は、パソコンの画面を指差しながら声なき悲鳴を上げていた。
「なっ、何があったの! どういうこと?」
マスケラはつけているものの、清に抱かれているのは確かに琶子だ。登麻里には一目で分かった。
檻の中のシロクマのように、行ったり来たりしながら、登麻里は情報をまとめる。
「正体は知れていない。だけど、一晩寝て起きたら、琶子がシンデレラになって、時の人になっていた……ってことよね」
たぶん、まだ眠りの森の他の住人はこのことを知らない。
言う? 黙っている? ウーと唸り、登麻里はピタリと足を止める。
琶子の帰宅は深夜零時を過ぎていた。まだ就寝中だ。だから本人は知らない。
起こす? 起こさない? ウーと唸り、登麻里は髪を掻き毟る。
「スキャンダルって、全く、クローバーたちは何を考えているんだか!」
ムカムカする気持ちを落ち着かせようと音楽をかける。
『ミュージック癒しの瞑想Ⅱ』このシリーズ、今現在、第十二弾まで出ている。まだまだ増え続けるだろう。現代人の多くが、それだけ病んでいる証拠だ。
登麻里はヨガマットを床に敷くと、胡坐をかき、大きく息を吸いゆっくり吐く。
「落ち着け、落ち着け」
そして、両手の指をチンムドラというOKの形にし目を瞑る。
「落ち着け……落ち着け……」
だが、すぐにパチリと目を開け、ギリギリと奥歯を噛む。
「己、クローバーめ! あの子に悪をさしたら……」
スックと立ち上がると、「ヤー」「トォー」と空手の型を次々決めていく。
フン、空手師範代を舐めんじゃないわよ!
登麻里の眼がギラッと鋭く光る。