眠りの森のシンデレラ
「それはいいけど、これ、どうする? 幸い金成さんは国外出張でいないからいいけど……榊原絡みだから、きっと世界中に流れてるわよ、このニュース」
登麻里が本題に戻す。
「アチャー、金蔵様、飛んで帰ってくるわね。全く、あの三人! 金蔵様のお仕事の邪魔をして、どうしてくれよう!」
合気道有段者の薫は両手の拳をボキボキ云わせると、画面を見つめ、クローバーの写真を睨み付ける。
「琶子は世間に疎いけど、これだけ大々的に報道されちゃったら、知らないでいる方が難しいんじゃない」
薫の言葉に登麻里は頷き、「じゃあ、どうする?」と聞く。
「そりゃあ、本人に言うしかないでしょう。これ見せて」
薫は淹れたてのコーヒーを口に運ぶ。
「彼らの目的は大体分かるわ。イベントのため、琶子を外に出すため、でしょう。でも、やることがクレージーで派手過ぎるの、私たち庶民からしたら」
「庶民ねぇ、平和な庶民じゃないけどね」と登麻里は皮肉を込めて言う。
「まあ、眠りの森の住民も見方を変えればクレージーよ、でも庶民レベルの地味なクレージーだわ」
登麻里には、薫の云わんとすることが分かる。他人から見たら、我々は何事も無い真っ当な常識人だ。だが、それぞれに傷を抱え、クレージーで過酷な人生を歩んできた。
生まれながらに地位も名誉も金も、美貌さえも持ったクローバーたちの、天然培養温室育ち的な破天荒ぶりとは訳が違う。
だが……と登麻里は考える。
我々は変わった。あの菩薩のような、女神のような、天然無垢な琶子のお陰で……。
「とにかく、琶子が起きたら話をしましょう。そして、じっくり聞きましょう。昨日、何があってああなったのか」