眠りの森のシンデレラ

琶子は珍しく寝坊をした。
高く昇った陽を浴びながら、薫の用意したブランチを黙々と頬張る。

「スキャンダルですかぁ……私をネタにしても、何の特にもならないのに……まぁ、私だと知られていないようなので大丈夫……です」

最後の一口を口に入れ、ポツリと呟き、蜂蜜のたっぷり入ったジンジャーレモンティーをコクリと飲む。

「嫌だ、どうしちゃったの! 何落ち着いてるの! 本当大丈夫?」

「熱でもあるの」と薫は琶子の額に手を当てる。

話を聞いても写真を見ても、琶子はそれほど驚かなかった。
琶子には、昨夜のリアルな光景の方が衝撃的でエキサイト過ぎたからだ。

もし今、西からお日様が昇ったとしても「そう」ぐらいの反応だろう、と思う自分の反応の方が琶子を戸惑わせていた。

登麻里がフッと笑みを浮かべる。

「外気に触れると、結果の良し悪しは別として、多かれ少なかれ、成長という変化が現れるもの」

登麻里は眼鏡の柄を上げ、優しい眼差しを琶子に向ける。

「昨夜のパーティーで貴女も成長したのかしら?」

成長? この変化が? 琶子は自分が自分でなくなるような感覚を覚え、ブルッと震える。

「何も知らない子供の頃の成長よりも、大人になって受ける変化の方が恐いかもね」

登麻里は琶子の心を見透かしたように言葉を紡ぐ。

「でもね、幾つになっても成長できる人間って素敵よ。恐がらず、もっともっとリアルな外気に触れ、変化なさい」

慈愛に満ちた登麻里の笑みに、琶子は躊躇いながらもコクリと頷く。

「但し、我が身を落とす行為だけはしちゃ駄目よ」
「そうそう! 後で傷付くのは自分だからね」

琶子はニッコリと微笑み、「大丈夫です」と大きく頷く。

「一度死にかけ、お医者様に助けてもらって、周りの人に生かされた私に、風子さんがおっしゃったの『大切に愛してあげてね、自分自身を』って。その言葉を裏切る行為は絶対しません」

ならいいのよ、と登麻里も薫もニッコリ微笑む。が、その顔の下で……。

己、グローバーめ! こんな琶子をよくも週刊誌ネタにしたな! と彼等を叩きのめす施策を練っていた。

< 128 / 282 >

この作品をシェア

pagetop