眠りの森のシンデレラ
琶子は珍しく寝坊をした。
高く昇った陽を浴びながら、薫の用意したブランチを黙々と頬張る。
「スキャンダルですかぁ……私をネタにしても、何の特にもならないのに……まぁ、私だと知られていないようなので大丈夫……です」
最後の一口を口に入れ、ポツリと呟き、蜂蜜のたっぷり入ったジンジャーレモンティーをコクリと飲む。
「嫌だ、どうしちゃったの! 何落ち着いてるの! 本当大丈夫?」
「熱でもあるの」と薫は琶子の額に手を当てる。
話を聞いても写真を見ても、琶子はそれほど驚かなかった。
琶子には、昨夜のリアルな光景の方が衝撃的でエキサイト過ぎたからだ。
もし今、西からお日様が昇ったとしても「そう」ぐらいの反応だろう、と思う自分の反応の方が琶子を戸惑わせていた。
登麻里がフッと笑みを浮かべる。
「外気に触れると、結果の良し悪しは別として、多かれ少なかれ、成長という変化が現れるもの」
登麻里は眼鏡の柄を上げ、優しい眼差しを琶子に向ける。
「昨夜のパーティーで貴女も成長したのかしら?」
成長? この変化が? 琶子は自分が自分でなくなるような感覚を覚え、ブルッと震える。
「何も知らない子供の頃の成長よりも、大人になって受ける変化の方が恐いかもね」
登麻里は琶子の心を見透かしたように言葉を紡ぐ。
「でもね、幾つになっても成長できる人間って素敵よ。恐がらず、もっともっとリアルな外気に触れ、変化なさい」
慈愛に満ちた登麻里の笑みに、琶子は躊躇いながらもコクリと頷く。
「但し、我が身を落とす行為だけはしちゃ駄目よ」
「そうそう! 後で傷付くのは自分だからね」
琶子はニッコリと微笑み、「大丈夫です」と大きく頷く。
「一度死にかけ、お医者様に助けてもらって、周りの人に生かされた私に、風子さんがおっしゃったの『大切に愛してあげてね、自分自身を』って。その言葉を裏切る行為は絶対しません」
ならいいのよ、と登麻里も薫もニッコリ微笑む。が、その顔の下で……。
己、グローバーめ! こんな琶子をよくも週刊誌ネタにしたな! と彼等を叩きのめす施策を練っていた。