眠りの森のシンデレラ

琶子は再び本に目を落とし、文字を追う。が、思考が邪魔をし、読み進められない。

やっぱり気になる!
カウチソファーから身を起こし、立ち上がると清の部屋に向かう。

トントンとノックをすると、先ほどと同じように、清の声が「入れ」と返事をする。

「お邪魔します」と琶子は部屋に入る。
清は部屋の中央で、腕を組み、立ったままの姿勢で目を瞑っていた。

「あの、榊原さん」琶子の呼び掛けに清は目を開ける。
「何だ?」と清が琶子を睨む。
「あのぉ」と琶子は腕を伸ばし、テーブルの雑誌を指差す。

「あの記事で怒っていらっしゃるのでしょうか……?」

琶子の的外れな質問に、清の苛立ちが増す。

「そんなことで腹を立てるほど、器の小さな人間ではない」
「では、何を怒っていらっしゃるのでしょう?」
「本当に分からないのか!」

コクンと琶子は頷く。
いつの間にか、清が琶子のすぐ側まで歩み寄り、琶子を見下ろしていた。

「では、聞く。お前は俺と会えなくても、寂しくも辛くもなかったのか?」
「ハイ?」

この問いには、どんな答えが正解なのだろう?
琶子は必至と脳細胞を動かす。

「俺はお前に会いたかった。会えない日は寂しかった」

琶子の返事を聞かずして、清はこれが正答だと言わんばかりに言葉を発した。
空耳? 琶子は目をパチクリと見開く。

だが、それは現実だった。
清は言葉と同時に琶子を抱き締めた。
琶子を包む温かさは……確かに現実だった。

琶子は驚きに身を固くする。

< 132 / 282 >

この作品をシェア

pagetop