眠りの森のシンデレラ

「どうしてお前に伝わらないのだ」

心にもない戯言……その言葉を取り消せぬまま、この世から消えたナナ。
そんな馬鹿げた行為で『後悔』するのは一度で十分だ。
だから心に決めた。琶子には正直に心のまま行動すると……。

なのに、その気持ちがこの娘に全く通じない。
その苛立たしさが、今は清を苦しめる。

「あの、榊原さん……苦しいのですが……」
「フン、苦しめ! 俺以上の苦しみを味わえ!」

清は腕に力を込め、琶子をより強くホールドする。
これは苛めですか? 琶子は清の背中を掌でペチンペチンと叩き、反抗する。

「息が……息ができないじゃ……ないですか」
「お前はここに何しに来たのだ!」

この状況で質問? 琶子は苦し気に答える。

「本を読みに……」

やっぱり本が一番か! 清はチッと舌打ちする。

「それと……」
「それと何だ?」
「榊原さんに会いに……」

その言葉で、清の力が僅かに緩む。

「お詫びを言いに……」

お詫び? 清は何のことだ、とようやく力を抜く。

「私のせいであんな記事が出てしまって、ご迷惑をお掛けしているのでは……と思って」

すまなさそうな琶子の顔に、清の胸がキュンと疼く。
一応、俺のことを気に掛けていたということか……清の気分が浮上し上昇する。

「嗚呼、あれか。お前、綺麗に写っていたな。顔が写っていないのが惜しかったが。元データーを買い取ろうと思っていたところだ」

顔が写っていないのに、綺麗? 何それ! と琶子はちょっとムッとする。
だが、清の愉し気な様子に、アレッ? と首を傾げる。

「そのことは……怒っていないのですか?」

「何故怒るのだ。お前とのスキャンダルなら、いくら出てもいい。何なら、今こうしているところを写真に撮って送ろうか?」

清はニヤリと笑うと、いきなり琶子にキスをする。

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