眠りの森のシンデレラ

風子が亡くなってからしばらく、眠りの森は入居者を拒絶するかのようにピタリとその門戸を閉じた。そして、久々に入居を許されたのが桔梗だった。

桔梗は身も心もボロボロで痩せ細っていたが、お腹だけはポッコリ膨らんでいた。彼女の妊娠は一目瞭然だった。

「ナナお嬢様の友人だ。登麻里君、面倒を見てやってくれ」

登麻里にとって、妊婦姿を見るのは、身を切られるほど辛いことだった。
事情を知っているのに! と金成を憎悪した。

だが、桔梗と過ごすうち、辛さよりもお腹の子に対する愛おしさが募っていった。

そして、桃花が生まれた瞬間、喜びの涙が、最後まで胸に巣食っていたドス黒い恨みを、綺麗さっぱり洗い流してくれた。

あの時、真に登麻里は生まれ変わった。

「で、何すればいい? ディナーの準備するんでしょ?」

桔梗の声に登麻里は現実に戻り、「そうね」とニッコリ微笑む。その顔は聖母マリアのように慈愛に満ちていた。

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