眠りの森のシンデレラ
六時から始まったディナーは、いつものように賑やかで煩かった。
家族然とした騒がしさが皆の心を安心させる。
登麻里は、昼間の桔梗との会話を思い出し、斜め前に座る桃花を見る。
「薫ちゃん、この餃子の皮のカップサラダ美味しい!」
「でしょう! このパリパリ感が堪らないのよね」
「こらっ、危ない! 椅子の上でバタバタ暴れない!」
桔梗はメッと桃花を睨む。
フッと笑みを零し、登麻里は桃花から琶子に視線を移す。
「琶子、ちゃんと食べている?」
「ハイ! 登麻里先生、このローストビーフもジューシーで美味しいですよ」
琶子が登麻里の取り皿に、数枚それを置く。
「それにしても、今日のお料理も素晴らしい出来ですね」
キッチンの円形テーブルの上には、今日はクリスマス? と思しきデラックスな料理が所狭しと並んでいる。
「ありがとう。琶子だけよ、変わらず褒め称えてくれるのは」
薫は琶子の肩を抱き、その頬にチュッとキスをする。
「あっ、桃花も~」と隣席から薫の膝に飛び乗り、頬を突き出す。
「で、何故にブッシュドノエル風ミートローフやローストチキンがあるの?」
「ああ、それ? 十二月といえばクリスマスじゃない。で、予行演習?」
薫は桃花の頬にキスをし、桔梗に答える。
途端に桃花が「クリスマス~」と叫び、「ジングルベル、ジングルベル」と歌い出す。
クリスマスには若干早いが、と琶子は思いながらも、愉し気な桃花の姿とクリスマスソングに、遠い昔、幸せだった幼き日の光景を思い出す。
父と母、そして私。温かなロウソクの灯りに照れされた三人の姿は幸せそのものだった。あの幸せ以外、何もいらなかったのに……琶子はちょっぴりセンチメンタルな気分になる。
「何だ、ここはもうクリスマスか」
そこに突然野太い声が聞こえ、皆の顔が声の方を見た途端、薫が歓喜の悲鳴を上げる。
「キャッ、金蔵様ぁ!」
「お前等も入って来い」
金成がドアの方に声を掛ける。