眠りの森のシンデレラ
「……桔梗……だって?」
「何? 則武の知っている人?」
則武は裕樹の言葉を無視し、ツカツカと突っ伏す桔梗に歩み寄ると、彼女の肩を掴み強引に顔を上げる。そして、その顔を見るなり、目を見開く。
桔梗は則武から目を逸らし、顔を歪める。
「……ママ?」
大人たちの小さな異変を敏感に感じ取った桃花は、不安気に桔梗の服をギュッと抓む。
ハッと我に返った桔梗は、我が子を抱き締め、小さなその身を腕の中に隠す。
「……行きましょう、桃花」
立ち上がると、桃花を抱き上げ、キッチンを速足で出て行く。
「ちょっ、ちょっと桔梗、どうしたの!」
「アーッ、ママ、まだご飯食べる!」
登麻里の声が桔梗を追い掛け、桃花の声が廊下に木霊する。