眠りの森のシンデレラ
薫の視線を則武はムスッと睨み、ワインを一気に呷る。
「別に特別な話は無い。ただ、女に逃げられた、それだけの話だ」
則武はテーブルに置かれたワインボトルを手にすると、グラスに注ぎ、また、一気に飲み干す。
「あのね、則武って前はこんな軽い奴じゃなかったんだよ。結構一途でさ……」
「裕樹、シャット アップ!」
眼鏡奥の目がキツク裕樹を睨む。
「逃げた女が桔梗で、逃げられた男が貴方ってわけね」
薫がフ~ンと腕を組み、唇を突き出し軽く頷く。
そこへ、何気に爆弾を落とす清。
「じゃあ、桃花っていう、あの娘は則武の子かもしれないな」
清の言葉にその場が瞬時に固まる。
「ねっねぇ、前っていつぐらい?」
登麻里が隣の裕樹を脇で小突き、囁く。裕樹も声を落とし、指を折りながら答える。
「ウーン、確か……六年前ぐらいだったかな」
「うそっ!」
登麻里は両の手で口を覆い、目を見開く。
則武がガタンと椅子を倒し立ち上がる。
「俺の子……」
飛んで行きそうな勢いで踵を返す則武を止めたのは金成だ。
「高徳寺、落ち着け! とにかく座れ!」
有無も言わさぬ迫力で、目線を倒れた椅子に向ける。