眠りの森のシンデレラ
琶子は立ち上がると、倒れた椅子を元に戻し、金成の言葉に振り返り、テーブルに両手を付く則武の膝裏に、座面をコツンと当てる。
それを合図のように、則武がペタリと腰掛ける。
脇で清が「そんなことしてやらなくてもいいのに!」とむくれる。
「桔梗が眠りの森に住む以上、俺は桔梗の身元保証人として知る権利がある。桔梗は俺にも桃花の父親の名を言わなかった。いったいどういう意味だ。逃げられたとは何だ!」
桃花について、一切口を開かなった桔梗。
だから、金成はズット、桔梗が男に捨てられたと思っていた。
「あっ、でも、こんなこと言っちゃ悪いけど、貴方の子じゃないのかも……」
薫の言葉に、登麻里も「無きにしも非ず」と頷く。
だが、それを則武は強く否定する。
「俺にベタ惚れだったアイツが、俺以外の男と付き合う筈がない。それに……」
ウワァ、自意識過剰なほど自信満々、と琶子は則武の態度に呆れるやら感心するやら。
「お前、さっきから則武を見過ぎだぞ!」
清は琶子の肩を抱き、彼女の顔を自分に向ける。
「何をするんですか、今はそんなことしている場合ではないでしょう!」
琶子の言葉に清がニヤッと笑う。
「そうか、じゃあ、後でならこんなこと、してもいいのだな」
二人のやり取りを横目に、バカップルは横に置いておいて、と登麻里が尋ねる。
「それに、何です? どうしてそう言い切れるのですか?」
若干二名を除き、一同、そうだ、と言わんばかりに頷く。
「それに、俺はあの日、避妊しなかった。子供ができてもいいと思った。イヤ! むしろ、できて欲しいと望んだ、アイツの覚悟を決めるために……なのに」
「確信犯……未必の故意か……」
清がフフンと面白そうに鼻を鳴らす。