眠りの森のシンデレラ

『理解できない内容は心に留めておいて。いつか理解できる日が来るから』

そんな言葉を残し、ナナは呆気なくこの世を去った。
そして、ナナを亡くしたショックで、琶子は書けなくなった。

丁度、一周忌を迎えた頃だ。ブランコに乗り、ウトウトしていた琶子の夢(?)にナナが現れた。

彼女は生前と変わらぬ優しい口調で、『物語を書いて』と言った。
高波が押し寄せるように、琶子の胸にナナの思いが押し寄せた。

書かなくちゃ! と琶子はその日から取り憑かれたように物語を書き始め、十六歳の時『今ある』を完成させ、これを文学賞に応募し大賞を取った。

ミリオンセラーになったのは喜ばしい誤算だったが、たくさんの人にナナの思いを伝えられ、琶子は使命を全うしたと感じた。そうついさっきまでは……。

「そうか……榊原さんは読んでいなかったのか。じゃあ、まだ、ナナちゃんの思いは伝わっていないんだ」

世の中には星の数ほどの本がある。
一冊の本との出会いは、奇跡だとか運命だとか言われる。

フッと目に止まり、ソッと手にする本は、心の内を代弁するかのような、今、読むべき本が多い。それは電子書籍になっても同じだ。

「榊原さんに、その時が早く訪れるといいな……」

琶子は『今ある』をギュッと胸に抱き、ナナの思いが早く清にも届くようと祈る。

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