眠りの森のシンデレラ

物語の内容を思い返した途端、清は喉から胸に何かが詰まっていくように感じ、息苦しさで左胸を押えた。

「ごめんなさい。大丈夫ですか? さっきの、まだ痛みますか?」

その様子に琶子が慌てる。
清は即座に否定し、尋ねる。

「……ナナは何故、お前にこの物語を書かせたのだ?」
「それは……予知能力? そんなものだったのかも……」

鉛色の空を見上げながら、琶子はポツリポツリと話し出す。

「……ナナちゃんは『愛する人たちに伝えて欲しい』と言っていました。いかに自分が幸せだったか、いかに自分が皆を愛しているかを」

あの残酷な言葉を吐いた自分が、その言葉を貰う資格はない……清の顔が歪む。

「何年かかろうと、無理強いすることなく、ナナちゃんの思い人たちと著書が出会えるよう、祈っていました」

琶子は付け足すように、「本との出会いは運命だから」と呟くように言う。

「運命……俺は読むまでに……運命が巡り来るまでに六年もかかった」

清の瞳に灰色の空が映る。
ナナが亡くなって八年。その年月、懺悔に苦しめ、と言っていたのかもしれない。

「榊原さん……」

以心伝心したかのように、琶子が首を横に振る。

「ナナちゃんは榊原家の娘に、榊原さんの妹になれて幸せだ、といつも言っていました。それから、家族を愛していると……著書に書かせてもらいましたが、伝わりましたか?」

清が複雑な表情で頷く。

「それから、物語には書きませんでしたが、もう一つお伝えすることがあります」

< 168 / 282 >

この作品をシェア

pagetop