眠りの森のシンデレラ
「あんたねぇ……あの有名なクローバーも知らないの?」
ヤレヤレ、と呆れ顔で首を左右に振り、露骨に溜息を一つ付く。
「英語名クローバー。和名詰草。その葉はハートの形で三つ葉が一般よね」
それぐらい知っているでしょう、と薫は琶子を見る。琶子はウンウンと頷く。
「三人の御曹司たちは、とにかくモテるの。でね、三人にハートを撃ち抜かれた婦女子たちが、その葉になぞらえ付けた愛称が『クローバー』ってわけ」
ホウホウと琶子は再び頷く。
「それには続きがあって、四つ葉のクローバーは十字架に見立てられ、幸福のシンボルとされているわよね。彼女達は四つ葉の一葉を我が身に置き換え、シンデレラストーリーを夢見るわけよ。三人の御曹司の誰でもいい、お嫁さんにして、とね」
「ヘェ~、彼女たちは随分節操がないのですね。誰でもいいって、愛がないじゃありませんか!」
憤慨するものの、おお! と何か閃いたのか琶子の顔が明るく輝く。
「私的にはあり得ませんが、物語的には面白い展開が期待できそうです。そうですか、クローバーねぇ、スゴイ人たちなんですねぇ、興味深いです」
琶子の言葉に薫は、本当に分かっているのかこの娘、と疑惑気に彼女を見る。
その時だ、背筋も凍る冷たい声が、薫の背中越しから問う。