眠りの森のシンデレラ
「あ? 則武も来ているのか?」
「あれ? 言ってませんでしたか。今、桔梗さんとお話し中です」
フ~ン、と清は頷き、当然というように言う。
「則武はどうでもいいが俺は泊まる」
「俺も泊まるから、琶子先生、よろしく」
清の言葉に続き、間髪入れず聞こえた声に、琶子は驚きヒェと飛び跳ねる。
何でそんなに驚くんだ、と清は思いつつ、本当、コイツの動作は一々面白い、と笑みが零れる。
「あっ、なんだ、高徳寺さん、もう、ビックリさせないで下さい。お話し終わったんですか?」
「いや、まだ。全く! あいつは頑固だ。途中だけど、桃花の迎えの時間だからって、飛び出していった。俺も一緒に行きたかったのに」
不貞腐れながらも、かなり機嫌のいい則武に、琶子も清も、話が良い方向に進んでいるのだろう、と察する。
「じゃあ、ゲストルームを整えてきます。榊原さんは自室ですね。お泊りの用意はご自身でお願いします」
「何だそれ、俺の世話もやけ!」
「いえいえ、ご辞退いたします。では、高徳寺さん、榊原さんとごゆっくり」
琶子がキッチンを出て行くと、入れ違いに薫が買い物から戻って来た。
「お二方、今夜はお泊りですって。お夕飯はお鍋よ。今から支度するから、お手伝いお願いね」
有無も言わさぬ薫の視線に、則武と清は「おい、どうする」といつになく目が泳ぐ。
薫がケラケラ笑い「分かっているわよ」と軽くウインクする。
「お二人共、お料理なんてしたことないんでしょう。でも、ここで、それはまかり通らないの」
そう言って、二人に無理矢理エプロンを着けさせ、「私を真似てね」と手を洗うところから教え、二人に肉団子の作らせる。
最初こそ渋々だった二人だが、何事もゲーム感覚で挑む両者は、結局『どちらが多く作るか対決』を始め、あれよあれよという間に百個の肉団子を完成させた。見栄えも美しく。
「こういうところなのかしら? 事業を成功に導くのは……」
感心しながらも薫の手綱は緩まない。
「じゃあ、次はね」と次々に用事を押し付けるが、二人は難無く、楽し気に、それをやってのける。実に紳士的に、スマートに。