眠りの森のシンデレラ

「だから、お前は何だって、そう簡単に俺を殴るんだ!」

本日二度目のボディーブローを食らった清は、再起不能とばかり、ソファーで横になっていた。その横で、やり過ぎたとばかり、シュンと身を縮める琶子。

「だって、榊原さんが……」

「お前は普段ボーッと夢見るお姫様だが、何故、時々炎の暴力ファイターに変身するのだ。それも俺に限って、お前Sか?」

琶子はギロッと清を見る。

「そういうところです! 人を小馬鹿にしたような、そういう態度が……ムッとします」

唇を突き出し、不貞腐れたように言う琶子に、笑いを堪えながら登麻里が言う。

「でも、珍しいわね」

何が? と琶子と清がカウンターの方を見る。

「琶子がそんな風に感情を顕わにするの。だって、琶子は人見知りは激しいもののニコニコ仮面だもの」

「ニコニコ仮面? どういう意味だ」

清が琶子の顔を見る。琶子は人差し指で自分を指し、首を傾げる。

「ええ、そうね」薫が同意する。

「この子はねっ、我が身に辛いことや、悲しいことが降り掛かる時ほど、ニコニコ微笑むの。周りに気を使ってね」

エッ、あっ、そんなつもりは……と琶子は複雑な顔をする。

「そう、だから榊原さんは特別なのかも……。琶子から喜怒哀楽を引き出し、素に戻すことができる人? っていう意味で」

特別? 琶子の心にストンとその単語が落ちる。
ああ、そうか……琶子は清を見る。

登麻里の言葉に、清は自分に『怒』を思い出させた金成を思い出す。
イヤイヤ! と頭を振り、ちょっと待て! 俺と琶子の関係は、金成のそれとは違う! と大否定する。

「特別な存在、というなら恋人としてだ!」

唇をへの字に曲げた清に、薫と登麻里は、この男、意外に子供っぽくて面倒臭い奴かもしれない、と溜息を付き、密かにガキの称号を与える。

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