眠りの森のシンデレラ
「……誰が来るって」
薫は顔を強張らせ、恐る恐る振り返り、声の主を見る。
その主とは……桔梗だ。
彼女は全身にブリザードを呈し、鋭い眼差しから氷結ビームを発し、再び訊く。
「誰が来るの!」
ヒッと声を引き攣らせ、薫は桔梗から二歩後退する。
「あ、あんた何? 怖い……だから、榊原清に高徳寺則武に水佐和裕樹だって……ば……」
極上美人の本気怒り顔は、通常美人の二割増し怖い! いまいち怒りのポイントは分からないが、どこかで美女地雷を踏んでしまったのだろう、ここは取り敢えず、と薫は「悪霊退散!」「くわばら、くわばら」と両手を擦り合わせる。
その甲斐あってか? 桔梗はフーッと息を吐くと、通常のクールフェイスに戻り言う。
「私、用事を思い出したから失礼するわ。桃花、行くわよ」
「えっ、やだ。クッキー食べる」
「あとでね。桃花と私の分、残しておいて」
暴れる桃花を抱え、桔梗は足早にキッチンを後にする。
その後ろ姿を目で追い、一気に緊張が解けた薫が問う。
「どうしたのかしら?」
「さあ、らしくないわね、彼女」
登麻里は「それにしても、悪霊退散はないわ」と呆れ顔で薫を見る。
薫は「だって、本当に怖かったんだもん」と拗ねたように唇を突き出す。
オネエと言っても、その様は極上美。
登麻里のピンクの脳細胞に、次のアイディアが降臨する。
「ねぇ、こんなのどう? 氷の女王様と女装癖のある祓い屋のイケナイ関係」
登真理の言葉に薫は、祓い屋とのイケナイ関係? 何だそれ? と首を傾げる。
そこに「いいかな?」と、堂々たる恰幅の紳士、金成が姿を現す。