眠りの森のシンデレラ
「では、まずは桃花姫、お手をどうぞ」
則武はキャッキャッとスキップする桃花の手を引き、ダンスホール中央に乗り出す。
「まぁ、何て可愛いご令嬢かしら」
「キャーッ、則武様ったらロリコン? チョイ悪オヤジ風で、最高にエロイ!」
老若貴婦人が賞賛と歓喜の声を上げる。
「まぁ、あんなんじゃ、終わんないね」
裕樹の予告通り、曲の途中で則武は渋る桔梗を誘い出す。
そして、桃花を抱き上げ、桔梗の腰を抱き、三人は甘いステップを踏む。
その姿はある意味、スプラッター映画よりも婦女子たちにショックを与えたようだ。
「なっ、何あれ!」
「嘘でしょう、則武様が妻子持ち?」
則武の隣を狙っていた婦女子たちは、唖然呆然で三人を見つめ、二人がダンスの合間にキスをすると、絹を引き裂くような奇声が上げる。
あ~あ、やっちゃった、と裕樹はシャンパンをコクリと飲む。
「……虹色のオーラが見えるようです。幸せそうですね」
「きっと明日の話題ランキング、則武で埋め尽くされるよ」
祐樹の言葉に、そうですね、と琶子はウットリ三人を見つめる。
清は琶子を見下ろし、言う。
「なんだ、お前も踊りたいのか?」
頬を染めホールを見つめる琶子の姿に、清は思う。
この間のマリー・アントワネットもよかったが、今日のアン王女もなかなかなものだ。ミーヤにローマの休日のオードリー・ヘプバーンにしてくれ、と頼んで正解だった、とほくそ笑む。
「いえいえ、滅相もない。ご遠慮申し上げます」
琶子は仮面舞踏会の件を思い出し、ブルブル左右に顔を振ると逃げ腰で言う。
赤くなったり青くなったり、本当、可愛いな。
清は、そんな琶子を、ここに居る皆に自慢したかったが、それ以上に、見せたくない! と思う独占欲の方が勝っていた。
「ああ、今日は仮面もつけてないから、そんな無茶はさせない」
それに、と市之助の方を見る。
今日は、市之助が琶子に近付かぬよう、金成が盾となってくれている。だから琶子が誘われる心配もない。