眠りの森のシンデレラ
「あの、榊原さん、ちょっと、放して頂けませんか」
琶子が小声で囁く。
「嫌だ」
子供か! と突っ込みそうになり、イヤイヤ、と周りに視線を走らす。
則武の件で放心状態だった人々が、再びのスプラッター現象にざわめき始める。
「そんなこと言っても、皆が見ていますよ」
「放っておけ」
貴方には羞恥心はないのですか! と怒鳴りたいのを我慢し、琶子は必死に清の胸を押し返す。
「ああ、そうだ」と、清は少し顔と顔の距離を離す。
「俺もプレゼントしなければ。取り敢えず……」
清は琶子の顎をクイッと上げると、その唇にキスを一つ落とす。
「琶子、愛しているよ」
それを見聞きしたギャラリーが「キッ、キッス~!」「あっ、あっ、愛している~!」一斉に大合唱をする。
「ワオ、見事にハモっている!」
裕樹は場違いな感想を漏らし、「今年のクリスマスパーティーは飽きないねぇ」と楽し気に笑う。
琶子は目を見開き、アワアワと何か言いたげだが、言葉にならない。
「ウワッ、琶子ちゃん、息をして。ほら、深呼吸、深呼吸! もう、清、やり過ぎ」
清は、何てことない、これも計画のうちだ、と裕樹に耳打ちし、いきなり琶子をお姫様抱っこする。
あ~あ、計画って、全くもう、と裕樹は琶子が気の毒になる。
そして、やっぱり、「イ~ヤァァァ!」とまたもギャラリーの大合唱が会場を揺るがす。
清はニヤリと笑い、ちょっと席を外す、と人々が作る花道の中央を、琶子を抱いたまま悠々と進んで行く。
必死で顔を隠す琶子に裕樹は、幸多かれ、と十字を切り、天を仰ぎ祈る。