眠りの森のシンデレラ

「間もなく客が到着する。すまないが登麻里君、玄関まで迎えに行き、西の応接室まで案内してくれないか。薫は飲み物を頼む」

登麻里は「エエ」とにこやかに返事をし、パソコンの電源を切ると、待っていました、とばかりに、いそいそと玄関に向う。

「金蔵様、飲み物はコーヒーでよろしくて?」

金成ファンの薫は、彼の腕に腕を絡め、シナを作り問う。

「ああ、よろしく頼む」

しかし、薫の色仕掛けに動じる金成ではない。あっさり腕を解くと琶子に目を向ける。

「お前はどうする?」
「あっ、金ちゃん、私は執筆作業に戻ります」

さっきから黙って準備をしていた琶子は、バスケットを手に取る。

中には、いつものように薫の作ったスウィーツ、お気に入りのティーセット一客、ウエットティッシュ、そして、ビニールシートが入っている。

「何かあったら呼びに来て下さいね」と明るく言い、ロイヤルミルクティー入りのポットとノートパソコンを持ち、ブランケットを小脇に抱えると裏口の戸を開ける。

「また、あそこで仕事か?」

金成の問い掛けに、琶子は振り向き、「はい」と大きく頷き、「じゃあ、行ってきま~す」と元気よく手を振り、パタンとドアを閉める。

ドア横の窓から琶子の後姿を見送りながら、薫がポツリと呟く。

「彼等に会わせないのですか? 本当、過保護もほどほどにですわよ」
「嗚呼、分かっている」

金成は思惑気に、小さくなっていく琶子の後姿を見つめ続ける。

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