眠りの森のシンデレラ
「イベントは二月十四日、創業百周年記念とバレンタインを抱き合わせました。なんせ『今ある』は恋愛小説ですので」
則武はニコニコ顔で言うが、あの小説の内容は、バレンタイン向きではないのでは? と琶子は思う。
則武は、細かいことには関知せず、という風に話を続ける。
「琶子先生には第二部、トークイベントのゲストとしてご登場頂きます。ちなみに第一部はつまんない、お堅い百周年記念式典で、第三部はパーティーとなっております」
ここにきて、琶子はフッと沸いた疑問を口にする。
「あのぉ、この計画、私ありきで話が進んでいますが、もし、お引き受けしなかったら、とんでもないことになっていたんじゃないですか?」
だが、その問いに答えたのは則武ではなく清だった。
「そりゃ、そうだろ。会場となる我がローズホテルも、裕樹のところもだが、KTG出版は大嘘付き呼ばわりされていただろう」
清の説明によると、何と招待状は既に発送済みで、そこには『幻の作家、近江琶子登場!』の文字が印字されているらしい。
それを聞き、琶子は、嗚呼、本当に『巧速』だ、と顔面蒼白となる。