眠りの森のシンデレラ
茫然自失の琶子を置き去りに、一通り説明を終えた則武は、鼻歌でも歌い出しかねない様子で清に宣言する。
「当日、パーティーで桔梗と桃花を正式に披露する。それから、今日から俺も眠りの森で生活する。いいな?」
ハーッ、なんですとぉ! 琶子はビックリ眼で則武を見る。
「桔梗に俺の住まいに越して来い、と言ったのだが、桃花が絶対嫌だと可愛い顔で泣くんだ。もう、本当に可愛い泣き顔でさぁ、皆の側がいいって駄々をこねるんだ。だから、俺が越すことにした」
桃花の話をする則武の顔はデレデレだ。インテリイケメン振りの姿など微塵もない。そんな姿に呆れる清だが、ハタと思い返し、厳しい口調で告げる
「あそこはシェルターだ。いくら桃花が泣いても、行き場所が決まったのなら出て行ってもらう」
あっ、そうだった。琶子は風子との約束を思い出す。
『琶子、眠りの森は傷付いた心を癒す避難所なの。心ゆくまでいていいのよ。でも、幸せが訪れたら、恐がらず、迷いなく飛び立ちなさい。それが眠りの森の在り方なの』
「琶子、お前もだ。俺と結婚したら、俺とここで生活する。この榊原邸で」
「じゃあ、結婚しない……っていうか、まだまだ結婚なんて考えられない」
「お前、往生際が悪いぞ!」
「ちょっ、ちょっと待った! 喧嘩は後でどうぞ」
則武が慌てる。
「ということは、桔梗と桃花は眠りの森から追い出されるってこと?」
「まぁ、そういうことだ」
清は琶子を睨みながら、則武の質問に憮然と答える。