眠りの森のシンデレラ
「桃花大泣きだろうな」ブツブツ呟き、苦悩しながら則武は眠りの森に向かう。
榊原邸に残った清と琶子は先程の続きとばかり、言い合う。
「いくら榊原さんが即断即決即行動だろうと、結婚は相手のあることです。私の意志を無視してできません」
「フン、お前はただ眠りの森を離れたくないだけだろう」
琶子の胸がドキンと音を立てる。
「ちっ、違います! 私はただ……」
「ただ、何だ?」
清を睨んでいた瞳が、しだいに潤み始める。
「お前、分かっていてやっているのか?」
途端に清は狼狽える。
「クソッ、そんな目で見られたら、こうするしかないだろ」
清は琶子を抱き締め、その髪を優しく撫でる。そして、優しく囁く。
「お前は俺との結婚は嫌か? 俺はお前とずっと一緒にいたい。お前と幸せになりたい」
清の素直な言葉が琶子の心にスーッと沁み込み、琶子の胸がキュンと締め付けられる。
「……でも、眠りの森から出て行かなくちゃいけないんでしょう、それはイヤ!」
スンスンと鼻を鳴らす琶子の瞳から、ポロポロと波が零れる。
「おい、こら、琶子、泣き止め。俺はお前の涙に弱い。どうしたらいいか分からなくなる」
清は戸惑いながらも、琶子の背中をヨシヨシと撫でる。
「だって、人生の半分以上も眠りの森で過ごしてきたんですよ。榊原さんは半年前に会ったばかりです。なのに、スキャンダルとか結婚とか眠りの森から出て行けとか、展開が早過ぎてついていけません」
今までの不満が一気に爆発したように、琶子は子供のように声を上げ泣く。