眠りの森のシンデレラ

そして、リアルクローバー、想像以上に危険で美味しそう! と舌なめずりし、いつものように良い人仮面を被るとニッコリ微笑む。

「いらっしゃいませ。私はこちらの住人、池田登麻里と申します」

深々とお辞儀をした途端、則武が「アーッ!」と叫び、彼女へと足を進める。

「池田登麻里って、もしかすると……あの官能小説、イヤ! 官能恋愛小説家の?」

そう、登麻里は官能小説を、ただのポルノ小説と言われるレベルから賞取りレースに参加できるレベルにまで昇華させた第一人者だった。

俯く登麻里はチッと舌打ちし、顔を歪める。

速攻でバレるって、どうよ! 偽名を名乗るべきだった? 心の中で後悔しながら、近付く王子の靴先を睨み付ける。

誤魔化したところで、後々面倒なことになりそうだ。バレちゃあ仕方がない、と柔和な顔を張り付け、顔を上げる。

「流石、KTG出版代表 高徳寺則武様。どんなジャンルの小説にも、女性にも、精通していらっしゃいますこと」

『女性にも』の所を強調するも、そこは内外共にイイ女を自称する美熟女登麻里、嫌味に聞こえないようサラリと対応しながら、則武を観察する。

瞳の奥に宿る抜け目ない野心……と失望? 興味深い人物だこと。
小説のネタになりそうだ、とほくそ笑む。

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