眠りの森のシンデレラ

お墓参りを済ませ、次に向かった先は名も無き神社。キンと澄み切った冷たい空気の中、参道を本殿に向かって清と琶子は手を繋ぎゆっくり歩く。

「もっと有名な神社じゃなくていいのか? ここご利益少なそうだぞ」

行きかう人もまばらな境内を、清は訝し気に見回す。
琶子が首を左右に振る。

「いいんです。ここで……ここはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが生きていた頃、毎年、初詣に来ていたところです」

琶子の瞳が遠く過去を見る。
優しい眼差しを浮かべる祖父と祖母の間で、何が可笑しいのかケラケラ笑い一生懸命おしゃべりをする自分の姿はとても幸せそうで、涙が零れそうになる。

琶子の瞳が今度は横を見る。
彼は数か月前に、出会ったばかりの人だ。
でも、誰よりも深く内に踏み込み、硬い殻を破ってくれた人だ。

「この新しい年を、幸せの場所からスタートしたかったの……清さんと一緒に」

清と繋いだ手を琶子は思い切り振り、エヘヘと笑う。
過酷な過去を背負う琶子が、子供のような笑みを浮かべる。
清は思わず立ち止まり、琶子と向かい合う。

「あの、えっと、清さん?」
「柳のようにしなやかに生きろ」

えっ? と琶子は首を傾げる。

「急いで大人になる必要はない。お前が何故、スイーツ好きなのかが、少し分かった気がする。これからは俺に遠慮なく甘えろ」

清が琶子の髪を優しく撫で、再び歩き出そうとしたその時、バサバサと音がした。琶子と清が音の方を見る。

「……白鳥?」
「みたいだ。近くに湖や沼があるのか?」

二人は真っ青な空を見上げ、優雅に飛び去る真っ白な姿を見送る。

「平和だな」
「はい。平和で幸せです」

二人は微笑み合い、再び、本殿に向かって歩き出す。

「それにしても寒いな」
「はい、冬ですから」

だから余計に感じるのだろうか、繋いだ手がとても温かだ……と琶子も清も、心で同じことを思う。

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