眠りの森のシンデレラ
「名も無き神社も、なかなか趣があってよかった」
「ハイ! 次は新春バーゲンです。ドキドキしますね」
助手席で琶子が「行先はKOGO百貨店です」と薫に教えてもらった店名を告げる。
「初売りとバーゲンが元旦からって、スゴクやる気ですね」
「お前はバカか!」
ウキウキする琶子に突然清が声を荒げる。
エッ、何故この瞬間、馬鹿と言われなくてはいけないのだ! 琶子はムッとし、運転席の清を睨む。
「お前に睨まれても全然恐くない。俺はKOGOへは行かない」
「どうしてですか!」
清がツンとソッポを向く。
「お前が全然、俺に興味を持っていなかったことが、これでハッキリした。KOGO百貨店はライバル店だ。系列会社ローズ百貨店のな」
ハッと琶子は清を見る。
「……そうなんですか」
だって……薫さんが……ということは、知っててライバル店を教えたの?
薫のしたり顔が浮かび、あぁ、なんてことを! と頭を抱える。
「ごめんなさい」
琶子はしょんぼり助手席に身を縮める。
「よく覚えておけ! KOGOの次期後継者ウィリアム・佑都・ミラーは、則武や祐樹とは別バージョンのライバルで悪友だ。だから奴に関連する名を出すな。クソッ、結婚も先を越されてしまった。アッ、神社で見た白鳥……」
あれを見たせいだ! 清の眼にメラメラ炎が燃える。
ウィリアム・佑都・ミラー? 嗚呼、と琶子は思い出す。
薫と登麻里が、雑誌を見ながら「現世の王子とシンデレラ」と呼んだ、あの白鳥佑都のことだ。
記事には、彼の結婚でKOGOの株価か跳ね上がったと書いてあった。そして、そこの株を持っていた金成は、ホクホク顔だった。
金持ちの一挙一動が世間に与える影響は想像を絶する、とあの時感じた。
なるほど、桔梗が則武から逃げたのも分かる気がする、と今更ながら理解する。
そういえば、と琶子は清の横顔を盗み見ながら、この人も大富豪だった、と微妙な気持ちになる。