眠りの森のシンデレラ
結局、KOGOへは行かず、ローズ百貨店に向かった。
だが、一歩店内に足を踏み入れた途端、熱気と人込みに、二人は唖然とする。
まさかの清までもだ。二人は店頭で立ち尽くしてしまった。
「……清さん、これ何ですか?」
「出待ちじゃないのか?」
「誰のですか!」
見つめる先は、人・人・また、人だ。
「噂には聞いていたが……凄いな」
ローズ百貨店はKOGO百貨店と並び、世界的にも有名な百貨店だ。
白鳥佑都の結婚で、ここ最近、世界中の目が日本に向いている。
それも影響しているのだろう。
見込み客は勿論、購買意欲満々の訪日客や富裕層も入り乱れ、店内は人の波で荒れ狂っていた。
「あのっ……バーゲン、もう、いいです。帰ります」
だが、清はそれを許さなかった。
ブルブル震える琶子の手をギュッと握る。
「俺は中途半端が嫌いだ。行くぞ!」
清に引きずられるように琶子は店内を進む。
人にブチ当たり、足を踏まれ、琶子は悲鳴を上げる。
特に地下一階と二階の食品売り場は戦場のようだった。
「……清さん、死んじゃいます」
全く買い物は出来ず、ようやく一回りし、人波を抜け出し、車に辿り着くと、ボロボロの琶子が涙目で感想を述べた。
「……バーゲンって、恐ろしいものだったんですね」
相反して清は嬉々としていた。
「報告では、買い物客の動向は、通販サイトが主流となりつつあり、実店舗の売り上げは頭打ちだと聞いていたが、年末年始はそれに値しないということか」
榊原ホールディングス副総帥である清は、事業の主体である金融・観光・エネルギーのうち、現行、主に金融方面に力を注いでいた。
よって、観光部門である百貨店やホテルなどには、少し疎かった。
「こんな風にお忍びで、いろいろ見て回るのも面白い。来年はクリスマス商戦も見学行こう、なっ、琶子」
思わぬ楽しみを得た、とばかり満足気だ。
それを聞いた琶子は即座に宣言する。
「私は絶対に行きませんからね!」