眠りの森のシンデレラ

「琶子、琶子」

ユラユラと揺すられ、重い瞼を持ち上げると、そこに清の顔があった。

「着いたぞ、起きろ」

ンーッと伸びをし、琶子は辺りを見回す。
薄暗い。どうやら地下の駐車場らしい。
清は助手席側のドアを開け、寄り掛かるように立っていた。

「ローズホテルの駐車場だ」
「あっ、ごめんなさい。寝ちゃったんだ」

車から降りようとする琶子の頭がドアの上部ぶつからないように、清はそこに手を添え、琶子をスマートにエスコートする。

「ここの三十八階にレストランMの支店がある」

裕樹の店だ。

「そして、イベントが開催されるホテルだ」

どうやら下見に連れて来てくれたらしい。
琶子は清のさり気ない優しさに感動を覚える。

「ありがとうございます」

それに応えるように、清はフッと笑みを零し、琶子の手を握る。

「お前のそういう勘のいいところも好きだ」

三十八階まで、直通エレベーターでほんの数秒だった。
フロアは花柄の赤い絨毯が敷き詰められ、フカフカと足に優しく、疲れた琶子に心地良さを与えてくれた。

「これは榊原様、いらっしゃいませ」

清が店のフロントに立つと、責任者らしき黒服の人物が飛んで来て、深々と頭を下げる。

「黒田店長、予約を入れていないが、いいか?」
「はい。どうぞこちらへ」

二方向全面ガラス窓の景観良い明るい店だ。
真っ白なテーブルクロスの敷かれた眺めの良い丸テーブルに案内される。

席に着くと、個々にメニューが手渡される。
どうやらこの店は、レストランMのオーガニック専門店らしい、とメニューで琶子は知る。

体に優しそうだ、とニコニコしながら値段に目を移し、二度見する。
一、十、百、千、万……と数え、お財布には優しくないレストランだ、と結論付ける。

< 225 / 282 >

この作品をシェア

pagetop