眠りの森のシンデレラ
「そういえば、一緒に外食するのは初めてだったな」
「清さん……どうしてこんなに高いのですか!」
「何だ、お前怯えているのか?」
当たり前でしょう! 琶子は逃げ出したいのをグッと我慢する。
「それは人、物、金、プラス場所が最高だからだ。妥当な金額だ」
清があっさり答える。
琶子は食事が始まっても、モヤモヤしていた。
確かに店の雰囲気は最高だ。食事もとても美味しい。サーブする人々も迅速丁寧でプロ意識が高い。それでもやはり高額だと感じてしまうのは……。
そうか! 自分の価値観が値段とかけ離れているからだ、とモヤモヤの原因を結論付ける
「何かお前、メチャクチャ鬱々しているな。黒い影に覆われているぞ」
「清さんにも見えますか……?」
情けなさそうなハの字の眉が清に問う。
「いきなり多くの初体験をしたから、イカレ脳ミソが拒絶反応でも起こしているのか」
嗚呼、そうかもしれない。琶子は深い溜息を付く。
「清さん、あんなに立派な会場で……私みたいな者がゲストで……本当にいいのでしょうか?」
すっかり自信を失くし、意気消沈した琶子が尋ねる。
「いいんじゃないか、アイツがお前を所望しているのだから」
飄々とした態度。この人は、どうしてこんなにも掴みどころがないのだろう。
物事に拘りがないように見えるが、きっと誰よりも、それ持っている。
深く何かを考えていると思うが、読み取れない。
底が知れない人とは、こういう人のことだ。
嗚呼、と琶子は思う。だからこそ、トップに立てるのだ。
我が身との違いを、まざまざと見せつけられたような気がして、琶子は更に落ち込む。