眠りの森のシンデレラ
ローズホテルを出て、車で十分。KTG出版が展開するリアル店、KTG書房本店に到着したのは午後五時を少し過ぎていた。
元旦ということで、営業時間は午後六時まで、と出入り口の扉にお知らせが張ってあった。
「清さん、一時間しかありません! 早く早く!」
目を輝かせ店内を見渡す琶子を、清は眩しそうに目を細め見つめる。
「それにしても、凄く素敵な本屋さんですね」
八階建てのビルは、ジャンルごとにフロアが分かれていた。そして、各階には、買った本がすぐ読めるようにと、カフェコーナーが設けられていた。
「ああ。世界のブックストアー トップ10に入ったほどの店だ。当たり前だろ」
なるほど、と思いながら、琶子は壁の案内板を見る。
通常営業は午前九時から午後十時まで。ワンフロアの売り場面積はテニスコート八面分。
ウワッ、広い! 琶子は、今度ゆっくり来て、ジックリ見学しよう、と心に誓う。
「ちょっといいかな。近江琶子の本が見たいのだが」
三階の小説フロアで、清が男性店員に声を掛ける。
「あっ、それならこちらです」
黒縁眼鏡の真面目そうな店員が、親切にその場所まで案内してくれた。
裕樹の店にしても則武の店にしても、従業員教育がシッカリなされているのはトップがシッカリしている証拠だろう。