眠りの森のシンデレラ

「なるほど、そこに琶子先生のお袋さんがいるって言うんだな」

経歴書を上から辿っていくと、下欄に【緊急連絡先】高柳美鈴、【続柄】姉、とあった。

「勤め先は小鳩園。住所は……KTG書房本店の近くだ。確かここって、介護付き高級有料老人ホームじゃなかったか?」

則武は腕を組み脳細胞を動かす。

「ええっと、そうだ! 入居時費用、五千万から一億。管理費諸々の費用が月々、三十五万円以上する高額な老人ホームだ。なのに待ちが出るほど人気のある施設だ」

富豪の中には金成のように一生独身を掲げる輩もいる。
裕樹もどちらかと言えばそのタイプらしい。以前、年を取ったら小鳩園に引っ越そうかな、と言っていたのを則武は思い出す。

琶子は金額を聞き唖然とする。

「ああ、確かに高額な施設だ。なるほどな」

何故か清は忌々し気に顔を歪める。

「母親が居るところは、そこで間違いないだろう」
「エッ! まさか、そんな高級なところに母が入れるわけありません!」

琶子は強く否定する。
則武は清の苦々しい顔で見当が付いたようだ。

「もしかして、爺さん、市之助氏か!」

確認するように清を見る。

「嗚呼、たぶんな。あの虚言ジジイ! 知らないなんて大嘘だったんだ」
「うそ……ここに母が……?」
「確認は必要だが、十中八九、そうだろう」

手にする用紙を戸惑いの瞳が見つめる。
そんな琶子の肩を清は優しく抱き締める。

「大丈夫だ。俺がついている」

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