眠りの森のシンデレラ

ようやく笑いの止まった琶子は、スッキリとした顔で、大丈夫です、と二人を安心させるように微笑む。

「榊原清の恋人が引き篭もり作家、近江琶子と分かった今、ジタバタしてもどうしようもありません。安心して下さい。私、逃げたりしませんから」

登麻里と薫は顔を見合わせ、ハーッと安堵の息を吐く。

「琶子、貴女、強くなったわね」
「ウンウン。大人になった」

登麻里も薫も娘の成長を喜ぶように、顔を綻ばせる。

「本物の愛を知ったからかしら?」

登麻里がムフフと厭らし気な笑みを浮かべる。
何が言いたいのだ? と琶子が首を捻っていると、薫が占い師のように両手を合わせ目を瞑り、「見えるわ」と呟いた。

「きっと、もうすぐ、やって来るわ。彼等が」

驚いたことに、薫の予言通り、一時間もせずして、金成に引き連れられ、クローバーが現れる。

則武は琶子の顔を見るなり、ガバッと頭を下げる。

「琶子先生! すみません。ごめんなさい。キャンセルだけは許して!」
「琶子、許すな! 全く、コイツ等ときたら!」

金成の言葉に、裕樹は慌てて手を振り訂正する。

「今回僕は関係ないからね。薫、信じてね。だから、契約破棄しないでね」
「フン、だが、計画を知った上で黙っていたお前も同罪だ」

金成に睨まれ、裕樹は、それもそうか、と項垂れる。

「その様子じゃ、高徳寺さんは、桔梗から相当キツイお灸をすえられたようね」

則武は黙って頷く。
だが、今回の張本人である清は、獄中の中心人物にもかかわらず、涼しい顔でテーブルの雑誌を眺めている。

そして、満足そうな笑みを浮かべ、「綺麗に撮れている。指輪もバッチリだ」と宣わった。

「こらー! 清!」

当然だが、その場にいる全員のひんしゅくを買ったのは、言うまでもない。

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